相続・遺言コラム

2021.09.20

認知症対策:親のおカネ~もしもに備える~

  • 生前対策

親のおカネが使えない!

親が認知症などで判断能力が低下し金融機関にその情報が伝わると、
原則として親名義の預金を引き出すことができなくなります。

施設への入居費用を親の預金で賄うつもりが引き出せない、
自分で立て替えるしかなく、厳しい生活を強いられるという事態に。
それならと思い、、親名義の不動産を売却して施設費用に充てようと思っても、
本人の意思確認ができないと売却ができません。

まさに八方塞がりです。
このような事態に陥った時にできることがあります。

認知症になる「前」と「後」で使える制度が異なる

 

認知症になった「 法定後見制度
認知症になる「 任意後見契約家族信託

法定後見制度、任意後見制度、家族信託、にはそれぞれにメリット・デメリットがあります。

すでに認知症である場合には法定後見制度しか利用できませんが、
それでも本当に必要な状況かどうか冷静に判断することが大切です。

まだ認知症になっていない、もしくは軽度の認知症で自分の判断で契約ができるようであれば
任意後見、家族信託、またはそれらの併用がおすすめです。

では、ひとつひとつの制度について説明していきます。

親が認知症になった「後」に活用できる「法定後見制度」

成年後見制度とは

認知症などで判断能力が低下した人の財産を守る制度のことです。
後見人は本人に代わって不動産や預貯金などの財産を管理したり、身の回りの法的な判断をします。
この成年後見制度は「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があります。

 

成年後見制度
法廷後見 任意後見
【判断能力が衰えた後】 【判断能力が衰える前】
後見 保佐 補助 将来に備え本人が元気で判断能力があるうちに、任意後見人を選び公正証書で任意後見契約を結んでおく制度
判断能力が全くない方が対象 日常的な判断はできるが重要な財産行為を行うには支援があったほうがいい方が対象  日常的な判断はできるが重要な財産行為については適切に行えない恐れがあって援助を受けた方が安心できるという状態の方が対象

後見人ができること

・預貯金の管理、解約
・保険金や不動産の売却手続き
・相続手続き
・介護保険の手続き
・福祉サービスの契約
・老人ホームや病院の契約 など
本人の身上監護や財産管理に関する『法律行為』と
それに付随する『事実行為』を行うことで本人の意思決定を支援します。

法定後見制度のメリットとデメリット

メリット

・財産管理、処分ができる
・悪質な契約を取り消せる
・親族などによる財産の不当な使い込みなどを防げる
・本人の死後、相続人や受遺者が相続財産を適切に受け取ることができる
・煩雑な手続きでも後見人に任せることができる

デメリット

・誰が後見人等になるかは家庭裁判所が決める
・申し立てに費用がかかる
・取下げや後見人の解任はできない
・本人からの出費に自由度がなくなり、硬直的な運用しかできなくなる
・後見事務作業が発生し、後見人に報酬を払わなければならない(親族が後見人の場合は無償の場合もある)

ネット上には、
生活費を夫の年金からも捻出していたのに、後見人の弁護士に「財産を減らすようなことは出来ない」
と、夫の年金を取り上げられ、生活が苦しくなった・・・・
などといった事例もあげられています。

たしかに出費に関しては自由度が減るのは事実です。
しかし、成年後見人の仕事は本人の財産を全く使わせないようにロックすることではありません。
当社の司法書士も成年後見人や成年後見監督人を務めていますが、
以下のような費用については、司法書士から裁判所に都度確認の上、支出してきています。
※常識の範囲内で、本人の財産状況にもよります
・配偶者の生活費
・親族が日常必要な費用を立て替えていた分
・身内への祝儀などの臨時的な出費

対策として後見人の候補者を立てる

ネット上にこのような声があがるのは、
そもそも急に出てきた弁護士や司法書士が色々言ってくるから気に入らない。
という心理的な側面が大きく関係していると思います。
だってそうですよね?
極端な話「はじめましてー。司法書士ですー。財産管理しますー。それは使ったらダメですー。」
ってなると、やっぱり納得できない感情が沸々と湧き上がってきますよね。

こういった事態になる可能性を少しでも低くする方法として、
成年後見の申立ての際に、後見人の候補者を立てることができます。
候補者を立てても、最終的には家庭裁判所が決めることになりますが、
申立前に弁護士や司法書士に相談をしてみて、
その中で信頼できる専門家に後見人候補者になってもらう、ということをご検討ください。

また、法定成年後見制度は公的な制度ということもあり、どうしても厳格な運用がなされます。
本当にこの制度を使うべきなのか?慎重に検討することも一方では大切です。

法定後見制度に向いている人とは

法定成年後見制度について、最も重要なポイントは「制度をきちんと理解してから利用する」という点です。
前述のように誰が後見人になるかは家庭裁判所が決定します。
そして、一度後見人が選任されると、「この人は嫌」などという理由で後見人を変えることはできません。
申立をする前にじっくり検討することが必要です。
内容よっては、慌てて申立をする必要はない場合もあります。
では、一体どういう人が利用するといいのでしょうか。

「争族」の可能性を秘めている場合

つまり、将来「相続をめぐって親族が争う可能性がある人」です。
例えば、、
兄弟間の仲があまり良くない
・家業を継いだ、などの寄与分が見込まれる親族がいる
親族の使い込みや財産隠し、多額の引き出しなどにより、財産の全容が分からなく可能性がある
安心して親の財産管理を任せられる身内がいない
こういった場合には利用価値があります。

国の方針

認知症の高齢者は全国で602万人、何と、65歳以上の6人に1人が認知症だそうです。
その中でこの成年後見制度を利用している人はおよそ4%程度の22万人弱にとどまっています。
厚生労働省の成年後見制度利用促進室は
「制度の利用者がメリットを実感できていないケースが多いことが指摘されている」としており、
今後は国も「利用を促進するため、制度運用の改善などを進めていく」としていますので、
動向に注目したいところです。

親が認知症になる「前」に活用できる「任意後見契約」「家族信託」

任意後見制度とは

本人が判断能力がまだあるうちに、将来判断能力が不十分になった時のために、
信頼できる人(家族・友人・弁護士・司法書士など)と任意後見契約を事前に契約しておく制度です。
公証人役場で公正証書を作成します。

その後、認知症になったときの手続き

家庭裁判所に後見監督人の選任を申し立て、
後見監督人が選任されると任意後見契約の効力が生じます。
任意後見契約を締結していても、認知症などで判断能力が衰えていなければ、任意後見契約はスタートしません。

家族信託とは

信頼できる家族・親族と信託契約を結んで財産管理を任せる方法です。
任意後見契約が認知症になってから効力が発生するのに対し、
家族信託は認知症になったかどうかに関係なく、
また、裁判所が関与することなく、すぐに財産管理をしてもらうことができます。

任意後見制度・家族信託の共通点とメリット

ここまで説明してきた「法定後見制度」は
親が認知症になった「後」に利用するのに対し、
「任意後見制度」と「家族信託」は共通して
親が認知症になる「前」に、財産をどのように管理し引き継ぐべきか、
親の意思を尊重しながら検討することができます。

任意後見制度と家族信託の相違点やメリット・デメリット

 

任意後見制度 家族信託
財産管理について 法廷後見制度と同様、財産管理ついて制限あり。
例)投資や生前贈与、相続対策等はできません。
幅広い財産管理が可能です。
相続対策や投資・資産組み換えなど柔軟に対応できます。
取消権について なし
判断能力低下を理由に不利な契約の取り消しができません。
なし
が、財産を受託者の名義に変更するため、被害を最小限に食い止めることができます。
身上監護について あり なし
※任意後見制度との併用するなど対応が必要

 

まとめ

法定後見制度、任意後見制度、家族信託にはそれぞれメリット・デメリットがあります。

すでに認知症である場合には法定後見制度しか利用できませんが、
それでも本当に必要な状況かどうか判断することが大切です。

まだ、認知症になっていない、もしくは認知症でもまだ軽度で自分の判断で契約ができるようであれば
任意後見、家族信託、またはそれらの併用がおすすめです。

専門家を上手に利用して、まずはその制度を利用すること自体がベストか?
といったところから冷静に判断することが必要です。

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